創業安政鋸匠六代目徳平「池田徳平鋸製作所」

tokubei_01駅 名:創業安政 鋸匠 六代目 徳平
企業名:池田徳平鋸製作所
駅長さん:池田英一
住所:白山市鶴来本町3ヲ63
TEL:272-0002 / FAX:272-0002
ホームページ http://www.ikedatokubei.com/

無休
北陸唯一、伝統手法を用いた170年続く鋸を主とした鍛冶屋です。

鶴来の鍛冶屋

安政年間およそ170年前に初代徳平に始まり、代々のこぎりを主に製造をしていました。私で池田徳平は6代目になりますが、小さい頃から父の寝た姿を見たことが無く、朝から夜まで忙しく働いていましたので、おのずと手伝いをしながら継承しています。

最近、使い捨てののこぎりや、工場であらかじめ加工されるプレカット木材の普及で、建築現場で昔ながらの大工道具を見る機会少なくなりました。

商売は別として、父もその技法だけは継承してほしいと願っておりました。ひとりでも需要がある限り続けていきたいと思います。また、全国的に日本古来の技法での伝統が消え、忘れられつつある昨今、再認識と普及を目指したいと思います。

道路の拡幅工事で軒先を削り作業しペースが減ったので、店舗とは別に作業所を(知守町に)建て、焼入れや研削等の作業はそこで行っています。店舗では商品販売や修理品の受け渡し及び目立てなどの軽作業を行っています。

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注文一貫生産

製造販売しているとはいっても、店頭の展示品をすぐに買っていただくわけではありません。のこぎりは、切る目的によって全て作り方が違うので、木の大きさや種類、枯れた木か生の木かを伺い、お客様の注文を受けてから初めて製作に入ります。木を実際に切り、切れ味や流れを確認した後にお渡し致します。切る木よって刃の大小、刃先の角度や柄と刃の角度などいろんな要素を変えて製作致します。

のこぎりは使っていて折れるようではいけませんので、硬くするのは簡単ですが、粘りも必要です。日本の刃物の中ですべて「鋼」で作るのは刀とのこぎりだけですが、硬くてかつ粘りの有るものする為には焼入れの技術が必要です。また焼き入れのときに出るひずみをたがねで取りながら表面を均一に作ってゆくのですが、このたがねを打つ微妙なさじ加減と目利きが必要で、どこが伸びてどこが縮むかを見極めるのが難しい技術です。

昔から刃物づくりは薄物が難しいといわれてきました。うちでものこぎりとは別に注文に応じて包丁やナイフも作りますが、逆に刀鍛冶屋や野鍛冶屋にのこぎりを作れといっても難しいとおもいます。

刀工のお弟子さんたちが何回も見学にも来られる事もありました。

父の時代から目立てのみを行う目立て屋さんから、柄の取替えはもちろん、折れたのこぎりを溶接し、焼きを調節しながらもとに修復する注文が市外からよくやってきたものです。よその目立て屋では切れなかったのこぎりも、うちでやると切れ味が良いとよく言われます。つまり、目の立て方は同じのこぎりでも切る木によって同じではいけません。

普通はこの事が分からないお店が殆んどですが、当店はのこぎりの製造から目立てまでを一貫して行っているので、単に木が切れるだけでなく、切っているとのこぎりがどんどん木に吸い込んでゆくような、バランスと切れ味の良いのこぎりに仕上げられるのです。

のこぎりが出来るまで

いまは昔のように砂鉄から溶かして原料をつくる時代でありません。あくまで実用品として手が届く道具としてまた安定した製品を作るため、原料は適したはがねを鋼材メーカーから仕入れています。そのはがねからまずのこぎりの形を板取りし、柄の部分を連結しその材料を炭と高温が持続するコークスで整形して焼入れします。

焼入れ温度は熱せられた素材の色で判断しています。この焼入れ温度は昔から引き継がれてきた重要な秘伝の一つです。昔は火力の保持にふいごという人力で風を送っていましたが、いまはモーターでの送風機を使っています。

焼入れたものはガラスのように硬く、これを粘りが出るように焼き戻し作業で確認しながら調整していきます。確認するには、表面の黒皮膜を削り、温度変化によって色が変化しますので、代々引き継がれてきた焼き色を見て各箇所の具合を判断します。

これが済んだら歪み(伸び縮みによるゆがみ)をとりながら表面を均一にしていきます。この技術が無い限り製品は出来ませんし、昔から鍛冶屋では薄ものは難しいと言われのこぎり職人が少なかった最大の理由です。のこぎりを長く使い続けると木とのこごりの摩擦による熱によりこの歪みも発生しますので、いくら目立てだけをしても曲がって切れてしまう原因にもなりますので、当店では目立ての時には他の製品でも必ずチックして直します。

この作業は当店では当たり前の事ですのであえて宣伝はしませんし、長く使用して頂くためのサービスです。つぎに刃を付けます。

焼入れ後は材料が硬くなるので、本当は刃を作りづらいのですが、お客様の要望と用途に合わせ、うちでは焼きのあとから切るようにしています。刃を付けたあと、平面研磨機で、表面を荒削りします。 のこぎりの断面は同じ厚みの板状ではありません。刃の付いている反対側の板厚をうすくすることで抵抗を小さくし、挽きやすくしています。

この荒削りのあと、回転砥石で中仕上げ、本仕上げを行います。 作業所でここまでの作業が済むと、店舗のほうで目立てを行います。ひとつひとつの刃をヤスリで削って、鋭角にします。用途により刃の角度の仕上げは違わせます。つぎにのこぎりの刃をひとつおきに左右に出して、締まって動かないことを防止する為にアサリ出しをします(アザリとも言う)。アサリの出し幅は目視とたがねで打つときの音の響きで判断し、これも切る木によって刃の出方を違わせます。

このようにしてできたのこぎりにたがねで作銘とお客様の名前を入れ、柄を取り付けて全体に歪みを再度確認し、実際に木を切り、切れ味と流れの確認をして完成です。

刃物と接ぎ木

のこぎりを納めていて良くうかがう話しは、当店ののこぎりを使うと、りんごや梨の果樹を剪定した次の年には早く良い枝や芽が出るとか、椿の品種改良をしている人がうちで特注した小型ナイフを使って接ぎ木をしたら新しい品種がうまくできたということです。樹木の切り口がきれいだと、接ぎ木もうまくつくようです。切った時の木の肌(表面)や切り口が荒れないからでしょう。

商品を納めている薬師寺等の再建を手掛けている宮大工に聞くと、木を長持ちさせ、何百年と建物を保たせるには、昔ながらの道具のみ使うといいます。電動工具では木が荒れて死んでしまうと言うのです。木の組織を死なせないよう手挽きのこぎりを使い特にやりがんなで細かく仕上げたひのきの表面は非常になめらかで、水がかかっても弾いてしまい、木の表面が腐りにくくなります。

このように本当に良い物を作ろうとすると、自然と道具も良いものが求められます。わたしも伝統工芸作家の実演などでは、作っている作品よりも、使っている道具の方につい目が行ってしまいます。

特注品

のこぎりというと大工道具のイメージがありますが、変わったものとしては、太鼓の胴をくり抜くための非常に細長いのこぎりを製作(大きな引き回し)したり、県外のある古くからのお寺では、敷地にある木で建物を修復しており、何十年と乾かしたケヤ木を伐るのこぎりを代々の住職が自分用に持つしきたりで、そこに昔ながらの大きな前挽きのこぎりも製作して納めました。

製材所が無い昔は、板を作るために使用されたものです。 昭和58年、天皇皇后両陛下ご臨席で開催された津幡の全国植樹祭で当店の枝引きのこぎりが使われ、現在この現物は鶴来町の樹木公園資料館に展示・保存されております。また石川県特産品として当店ののこぎりが選ばれ、明治神宮に奉献されました。

兼六園でも剪定の造園用鋸が使われていますし、リンゴやなしなど果樹の剪定用にも数多く使用いただいております。

うちのお客様はこだわる方が多いのですが、なかには昔風に<せん>(両方に取っ手がついた昔からの切削具)で表面を仕上げてくれと言われるものもあります。

皮とり包丁リバイバル

むかし当家の蔵に柄がたくさん入った木箱があり、父に聞いたら、戦前このあたりでは干し柿の皮むきの為に小型の包丁を当店で作っていたとのこと。父がためしに再現してつくったら、年配の方々が懐かしがって買ってゆき、地元で話題になりました。

平成4年ごろに当店でその包丁をテレビ取材し放映され、いっきに鶴来名産として広がりました。『ズームイン朝!」という番組内で、地域の特産品紹介コーナーがあリ、金沢のアナウンサーが石川県特産として紹介してくれたのがきっかけです。全国にうちの包丁でフランスパンや様々なものを切る映像が流れ、当店はもちろん、テレビ局や役場にまで電話問合せが殺到しました。

放送後何日たっても問い合わせが止まず、千丁以上もの注文を全てこなすのに一年近くもかかりました。いろんな問い合わせが鶴来の方々に行った結果でしょうか、他店からも小型の包丁販売する店が出てきて、今では鶴来名産として定着したようです。

鶴来商工会70年史によると、もともと皮とり包丁は昭和の初期に、他の刃物産地に対抗するために鶴来で作り始めた物のようです。

道具の値段

剪定の枝きり鋸などは1万数千円から作れます。両刃鋸でも3万円ほどでしょうか。全国的に見ても5~6万もする手作りのこぎりはありません。全てが鋼で出来ており、目立てさえすれば鋼がなくなるまで使えます。道具は中々買えないものです。同じ金額で一晩の飲み代を思えば、良いものは一生使えるので安いと思います。

といっても、私も仕事の道具が数万円すると聞くと、ちょっと買うのをためらってしまうのですが。環境に対しても皆様と考えながら日本古来の道具をよろしくお願い致します。